のたうちまわり

すいません、ゆるしてください なんでも書きますから

「SCOOP!」ネタバレ無し感想~みんなゲスくてみんないい

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10月10日公開の「SCOOP!」見てきました。

想像以上の満足度です。パパラッチの話なので、日本版「ナイトクローラー」みたいな感じなのかな-、とか思ってたけど全然違ってた。


監督はドラマをメインに活動している大根仁氏(最近は実写版「バクマン。」撮ってた)だし、主演は福山雅治だし、テキトーに無難な青春モノでもつくればそれなりに安定して売れそう、なんて思っちゃうけど……大根監督はそんなダサいことはしなかった。

滅茶苦茶ギラついてて、スゲー面白かったです(小並感)


迫真のカーセックスで始まる冒頭から、最大の見せ場である盗撮シーンに、カーチェイスやアクションシーンもあったりして、途中一切ダレることはなかったです。チャラいキャラとは裏腹にシナリオの本筋は意外とシリアス。そのギャップも秀逸に作用してます。


中年パパラッチと揶揄される自堕落なカメラマン都城静(福山雅治)は、週刊誌「SCOOP!」の新人女記者行川野火(二階堂ふみ)とタッグを組まされることになる。二人はあの手この手の方法で著名人のスキャンダルを暴いていく……という筋書き。
主人公の名前が「しずか」と「のび」だったり(これは原作基準だけど)、「強気な女副編集長」といういかにも吉田羊っぽい役で出演した吉田羊がデカい声で「ヤリマン」とか言ったり、序盤から見所に溢れてます。リリーフランキーも怪演。怖い。

盗撮パートも実際の週刊誌記者もやってそうな巧妙な手口だったり、もはやギャグに近い壮大な仕掛けを使ってたり。始めはこの仕事に嫌悪感を示していた野火が都城に感化されていきだんだんノリノリになっていく過程も笑えました。
予告編にもあった、政治家の不倫を撮影するために花火を打ち上げるシーンは見もの。

週刊誌編集部にスポットを当てた、「お仕事ドラマ」的なシーンもあるけれど、下手に美化したりせず、ダーティな部分はダーティに描かれているのも素晴らしい。むしろこういう仕事は世間様から褒められたものじゃないからこそカッコいいんですよね。それこそ「ナイトクローラー」とか「タクシードライバー」的なカッコ良さ。スキャンダルで部数がうなぎ上りになっていく中の、編修者たちのゲスいはしゃぎっぷりも微笑ましい。

楽しさの中に含蓄があり、ラストもちょうど良く余韻の残る骨太な映画でした。テンポの良さやドローン撮影なんかも取り入れた躍動感に満ちたカメラワークなどは大作の洋画さながらながらも、邦画的な要素も上手く盛り込んだ日本映画。海外ウケもいいいんじゃないかな、と思います。

実際、評論家とか細かいところまで気にする人とかは指摘するんだろうなーってところもわりとあったり。カーチェイスの場面とか(実際「マリオカートじゃあるまいし」みたいな台詞言う)、あれだけやって逮捕されないのはおかしいだとか。
でも、それもまたこの作品の尖りっぷりを強調してるんですよ。
そもそもマスコミを蛇蠍のごとく嫌ってる筋の人は滅茶苦茶怒りそう(笑)
個人的にはその手の人たちにこそ見て欲しいんだけど。


総評としてはやっぱり、誰が何と言おうと欲望を剥き出しにして夜の街を這いずり回る人間ってのはカッコいいんですよ。それに尽きます。 

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あと、「怒り」も見ました。あれも本当凄いですね。終盤震えっぱなしでした。間違いなく邦画の中でもトップクラスのクオリティです。
邦画史に残りうるが二本も公開されている今、君の名はばっかり見てる場合じゃないっすよ!

便意に抗え「ブレイキング・ゴッド」

ブッチッパ!

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ブレイキング・ゴッド(原題「the mule」。意味は頑固者、とか)は2014年公開のオーストラリア映画。クライムサスペンスであり、ブラックコメディでもあり、ソリッド・シチュエーション・スリラーにもなり得る。

 実話を元にした、ヘロインの運び屋をすることになった男の物語。
 主人公のレイはいい年こいて両親とベッタリで、何となくボーッとしてる冴えない男。ある日悪友からタイ~オーストラリア間の密輸の仕事を持ちかけられた。手法は「ヘロインを詰めたコンドームを飲み込み、体内に隠して検問を通過する」というもの。その量実に1キロ! 捨て身の作成は成功したかと思われたが、レイはヘマして結局拘束されて、彼は警察に勾留されることに。
 密輸をしていることは明らかなものの、法律上の問題もあり証拠なくして逮捕はできない。勾留期限は七日、トイレに行った時点で罪が確定してしまうレイと警察、苛烈な我慢比べが始まる──


 最近見た映画の中で最も気に入ったのがコレです。
内容は非常にシンプル、「警察の監視下の元ひたすらウンコを我慢する」それだけ。
それなのに、間延びすることない冷や汗もののサスペンスに仕上がってるのが流石です。
 脚本は「SAW」で有名なリー・ワネル
堪えきれぬ脱糞衝動に決死の表情で歯を食いしばりつつ耐える主人公の姿はまさにジグソウに殺人ゲームを仕掛けられた被害者のよう。

 ちなみに邦題に深い意味はないかと。ゴッドをブレイクするような背徳的な映画であることには違いはないんだけど。だいたい想像通り、麻薬つながりで「ブレイキング・バッド」の便乗邦題だと思う……。
ブレイキングバッドも必見の名作ドラマ。見とけよ見とけよ~

 
 排便を耐えることの苦しさが役者名演で苛烈なほど伝わってくるこの映画。五日を超えてくると身体がパンパンに膨らんできて、しまいには出血寸前に……ヒエ~ッ
 勾留している警官たちもかなり悪どいやつらで、無理矢理食べ物を食わせたり腹を殴ったり……いかなる手段を用いてでも脱糞させねばならない、といわんばかりに徹底的にレイを苛め抜きます。当然シャワーも着替えも付きっきりで監視。死ぬ思いで七日耐えたかと思えば、裁判所に期間の延長が認証されてしまう。
 カラダより先にアタマがおかしくなりそう。それでも耐えるレイ君のメンタルの強さに脱帽。


 で、本作最大にして最低の名シーンが物語が終盤に差し掛かり始めのあたりにあります。
 夜中、いい加減肛門のキャパシティを超えてしまったレイはついに漏らしてしまう。
 ここで映される排泄物が余りにもリアルで辟易としてしまうこと確実。
その汚物にまみれた袋、それを今すぐどうにかしなければ……彼はそれを掴み、口を大きく開け──

 スプラッターとはまた違ったベクトルの傷ましさが……ある意味究極のグロシーンが。なんでr-15判定すら受けてないんですかねコレ。

 「ウンコを我慢し続ける」という題材だけに、というか文字によって起こすと完全にギャグだけど、決して恵まれていない家族の為に泣く泣く犯罪に手を染めた主人公の悲哀、悪友との強い友情を感じさせる描写といったヒューマンドラマもしっかり書かれているし、極悪警官のトムや若干人権屋気質なものの敏腕の女弁護士など脇役もなかなか魅力的で、「出落ち」感は全くないです。冴えなかった主人公もラストでは閃きと勇気を持って勝負に出ることになり、その結末は今までの淀んだ空気を吹き飛ばすように、快便のごとくフレッシュだ。
 
 普段知ることのないオーストラリアの文化や風俗といったことも割と描かれているのも興味深いです。主人公が所属しているのがオーストラリアンフットボールという楕円形のスタジアムでプレイするスポーツのチームだったり、国ぐるみでボートレースに熱狂していたり。

 でもなんといってもやっぱり上品な要素が1個も無いってのが素晴らしい。イロモノ好きは必見、そうでなくても密室サスペンス系のファンなら案外楽しめると思います。
 勿論、何かを飲み食いしながらとか、家族や彼女と一緒に見るなんて愚行はしてはいけない。


 視聴中、トイレに行きたくなっても席を立たずにいるとさらにレイに感情移入できるかも?

今こそ「先生を流産させる会」を見ろ!

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先生を流産させる会」 は、鬼才・内藤瑛亮監督による2012年公開の映画。

愛知で実際に起こった事件を脚色した作品。

  

 ところで、この予告編を見てくれ。こいつをどう思う?


『先生を流産させる会』予告編

 ダーク&ドライな雰囲気の映像。「なんか良さそう」と思った人だったら間違いなく本編も楽しめると思います。

 

 で、できれば、動画を見終わったあとコメント欄まで画面をスクロールして見てみて頂きたい。……どう?

 

 酷いもんでしょ?

 

良識ぶりやがって、ガタガタうるせぇんだよこの野郎!(ビートたけし風に)

 

 中には、「先生を流産させる会」ってタイトルを聞いただけで顔をしかめてしまうような人も、実在の事件を映画=エンターテインメントとして売り出すなんて許せない! って人も多くいるでしょう(実際、女子高生コンクリ事件を描いた映画「コンクリート」はそういった批判意見が数多く届き公開中止に追いやられました)。

 

おそらく、タイトルだけでは「ムカデ人間」や「ピンク・フラミンゴ」なんかと同じカテゴリに当てはめちゃう人もいるかもしれないけれど、この映画は決して悪趣味なものではありません。


 とある中学校の素行の悪い女子グループ五人(実際の事件では男子)の所属するクラスでは、担任のサワコが妊娠したという話題で持ちきりだった。

彼女たちのたかり場所である廃ラブホテルで、グループのリーダー格ミヅキは冷酷に言い放つ。


「あいつ、セックスしたんだよ、気持ち悪くない?」


彼女のその言葉をきっかけに、五人は「先生を流産させる会」を結成。先生の腹の中の子供を殺すべく、執拗に嫌がらせを繰り返していく……

といった感じのストーリー。


 ネタバレになってしまうのであまり詳しくは書きませんが、彼女たちのする「流産のための嫌がらせ」というのは、非常に中学生という年代らしい。

椅子のネジを緩めて転ばせる、といった幼稚な悪戯をしたかと思えば、理科室にある薬品を躊躇なく給食に混ぜたりもしてしまう。初経があらわれる頃の、大人になりかけの子供、それゆえ無垢さと残酷さがアンバランスに共存しているのです。


 テーマがテーマである以上暗さが否めないことは事実ですが、胸糞悪いだけではないのが本作。それは得てして、サワコ先生の「強さ」が強調されている点。

 サワコ先生は、教師である前に大人であり、大人である前に女。


「もし 、自分の子供が殺されたらあなた達はどうする?」

五人を呼び出し、先生は彼女らに問う。

先生はどうなんですか、とミヅキたち。 

そこで先生は、「殺すよ」と言い放つ。


 火蓋が切られた先生と生徒たちの戦いは次第にエスカレートしていく。サワコ先生が五人に手を上げたことはモンスターペアレントの恰好のエサであり、多方面から追い詰められてしまう。一方、先生も簡単には折れない。子供にはない「大人の力」を用いて、五人に対抗していく。

立場や年齢の差はすでに意味をなしていない。本作は女という生き物同士の生存競争を描いたサスペンスにも成り得るのです。


 五人の生徒を憎むだけでは、先生の境遇に共感し周囲の無神経さに憤るだけではこの映画の真髄は見えてきません。ミヅキが執拗に性を嫌悪する理由、良心の呵責から精神的に追いつめられていく仲間たち──視聴者は感情を燻らせたままラストシーンへと向かいます。


この結末は果たして正しいのか否か、その判断は我々に委ねられます。

どのような結論にたどり着いたとしても、モヤモヤとした胸の内は多少なれども晴れることでしょう。


 今社会に、とくにインターネットには「余裕のなさ」が蔓延っていると感じます。最近だと熊本地震関連とかZ武、ベッキー不倫とか……みんな謝罪会見を見たがってる。


 Twitterでは有名人のたった一度の失言が拡散され、テレビCMの内容が不健全だと放送中止になり、「不謹慎」を大義名分に個人が叩かれる。

誰もが出る杭を打つのに夢中だ。

この作品を異常だと糾弾している人にこそ視聴してほしい。そして、自分は本当に正常なのか、再考すべきだ。


 悪いものは私刑にかけてもいい、そういった考えのもと、彼女たちは「先生を流産させる会」を結成したのだから。

ニューシネマの英雄たち、偉大なるニヒリスト

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 アメリカン・ニューシネマは、1960年代後半から70年代まで栄えた、おもに反体制を描いたアメリカ映画作品群を指す日本での名称。現地ではニュー・ハリウッドと呼ぶ。

ボニーとクライドの「俺たちに明日はない」なんかが有名ですね。
ベトナム戦争時の自国の動きを目の当たりにし、幻滅したアメリカの若者たちには、ハリウッドの提供する甘ったるいラブストーリーなんて見てられない。
そこで67年に誕生したのが、実在したギャングの活躍を描いたアーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」です。
言わずと知れたラストシーン、銃弾の雨を浴びるボニー&クライドは必見。
初めて金! 暴力! セックス!を全面に打ち出した映画。でも、この頃はまだハリウッドにはだらしねぇ表現規制があり、銃殺や性行為などのシーンは直接描写しないように工夫しています。

 で、ここでは「俺たちは~」の後を追って誕生した、名作ニューシネマを三つ紹介します。核心的なネタバレはしないので、TSUTAYAでレンタル、しよう!


カッコーの巣の上で
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75年公開、ミロス・フォアマン監督作品。ジャック・ニコルソン主演。

 労働逃れのために精神病を装い入院したマクマーフィ。しかし、その病院は婦長ラチェッドの支配する、刑務所と何ら変わりの無い環境だったのだ。
医師たちに言われるがまま動き、得体の知れない薬を飲まされる患者たち。今までそれに何の疑問も呈していなかったものの、奔放なマクマーフィに感化され、自由を求めるようになる──


 鬱々としていた病院の雰囲気がマクマーフィによって次第に変えられていくさま、積極的に体制に抗っていく様子には希望に満ちた爽快感が。
 悲観的なラストの多いニューシネマですが、この作品では開放感に満ちた、暖かい涙を喚起させると思います(ハッピーエンドとは言っていない)。

序盤に出てくる、「水飲み台」のシーンをよく覚えておきましょう。


バニシング・ポイント
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71年公開、リチャード・C・サラフィアン監督作品。バリー・ニューマン主演。

 「イージー・ライダー」や後述の「タクシードライバー」ほか、ニューシネマにはクルマや乗り物が多く登場します。中でも、天才ドライバー・コワルスキーと警察とのカーチェイスをフィーチャーしたのが本作、「バニシング・ポイント」です。

 道路交通法ってなんだよ(哲学)
ある賭けのために、サンフランシスコ目指しダッジ・チャレンジャーを猛スピードで走らせるコワルスキー、パトカーを小馬鹿にするようにまいていく有様を盲人のスターDJ、スーパーソウルは伝える。人々はみんなコワルスキーに共感し、声援を送り、協力すべくスーパーソウルのラジオスタジオに集まっていく。
 しかし、執拗な検問の魔の手は刻一刻とコワルスキーへと迫る……

 見ての通りコワルスキーは犯罪者だし、自分のために行動しているに過ぎないのですが、それでも間違いなく民衆の希望になっている、そんな構図が魅力的です。結末は非常にニューシネマ的。


タクシードライバー
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76年公開、マーティン・スコセッシ監督作品。ロバート・デ・ニーロ主演。

 ニューシネマ末期の作品。カメラワークなど、今見ても古臭さを感じさせません。イチ押しです。
よく映画通の気取ったやつらは洋画の日本版ポスターがダサいとかセンスがないとか言いますが(一理なくはない、と俺も思うけど……結局のところ作品によるって、はっきりわかんだね) この日本版ポスターはぶっちゃけ本家よりカッコいいと思います。

 不眠症に悩むタクシーの運転手トラヴィスは、鬱々とした日々を送っている。仕事以外にすることといったらポルノを見たり、マンハッタンにいる底辺の人間を車窓ごし眺め見下すといったことのみ。
 女にもフラれ、いよいよ彼の精神は危険な領域へと突入する……

 個人的には、シナリオそのものよりも画面から伝わる空気感を楽しむもんだと思います。
鬱蒼たる雰囲気をブチ切れたモヒカンにサングラスのトラヴィスが二丁拳銃でぶち壊す、至高のカタルシス!
レーガン大統領暗殺事件の元ネタでもあります。



 以上です、すべて保障できる名作なので、見て損はしないかと。
勧善懲悪ではない現実、たまには悪党に共感してみるのもいいんじゃないかしら!?