のたうちまわり

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ニューシネマの英雄たち、偉大なるニヒリスト

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 アメリカン・ニューシネマは、1960年代後半から70年代まで栄えた、おもに反体制を描いたアメリカ映画作品群を指す日本での名称。現地ではニュー・ハリウッドと呼ぶ。

ボニーとクライドの「俺たちに明日はない」なんかが有名ですね。
ベトナム戦争時の自国の動きを目の当たりにし、幻滅したアメリカの若者たちには、ハリウッドの提供する甘ったるいラブストーリーなんて見てられない。
そこで67年に誕生したのが、実在したギャングの活躍を描いたアーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」です。
言わずと知れたラストシーン、銃弾の雨を浴びるボニー&クライドは必見。
初めて金! 暴力! セックス!を全面に打ち出した映画。でも、この頃はまだハリウッドにはだらしねぇ表現規制があり、銃殺や性行為などのシーンは直接描写しないように工夫しています。

 で、ここでは「俺たちは~」の後を追って誕生した、名作ニューシネマを三つ紹介します。核心的なネタバレはしないので、TSUTAYAでレンタル、しよう!


カッコーの巣の上で
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75年公開、ミロス・フォアマン監督作品。ジャック・ニコルソン主演。

 労働逃れのために精神病を装い入院したマクマーフィ。しかし、その病院は婦長ラチェッドの支配する、刑務所と何ら変わりの無い環境だったのだ。
医師たちに言われるがまま動き、得体の知れない薬を飲まされる患者たち。今までそれに何の疑問も呈していなかったものの、奔放なマクマーフィに感化され、自由を求めるようになる──


 鬱々としていた病院の雰囲気がマクマーフィによって次第に変えられていくさま、積極的に体制に抗っていく様子には希望に満ちた爽快感が。
 悲観的なラストの多いニューシネマですが、この作品では開放感に満ちた、暖かい涙を喚起させると思います(ハッピーエンドとは言っていない)。

序盤に出てくる、「水飲み台」のシーンをよく覚えておきましょう。


バニシング・ポイント
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71年公開、リチャード・C・サラフィアン監督作品。バリー・ニューマン主演。

 「イージー・ライダー」や後述の「タクシードライバー」ほか、ニューシネマにはクルマや乗り物が多く登場します。中でも、天才ドライバー・コワルスキーと警察とのカーチェイスをフィーチャーしたのが本作、「バニシング・ポイント」です。

 道路交通法ってなんだよ(哲学)
ある賭けのために、サンフランシスコ目指しダッジ・チャレンジャーを猛スピードで走らせるコワルスキー、パトカーを小馬鹿にするようにまいていく有様を盲人のスターDJ、スーパーソウルは伝える。人々はみんなコワルスキーに共感し、声援を送り、協力すべくスーパーソウルのラジオスタジオに集まっていく。
 しかし、執拗な検問の魔の手は刻一刻とコワルスキーへと迫る……

 見ての通りコワルスキーは犯罪者だし、自分のために行動しているに過ぎないのですが、それでも間違いなく民衆の希望になっている、そんな構図が魅力的です。結末は非常にニューシネマ的。


タクシードライバー
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76年公開、マーティン・スコセッシ監督作品。ロバート・デ・ニーロ主演。

 ニューシネマ末期の作品。カメラワークなど、今見ても古臭さを感じさせません。イチ押しです。
よく映画通の気取ったやつらは洋画の日本版ポスターがダサいとかセンスがないとか言いますが(一理なくはない、と俺も思うけど……結局のところ作品によるって、はっきりわかんだね) この日本版ポスターはぶっちゃけ本家よりカッコいいと思います。

 不眠症に悩むタクシーの運転手トラヴィスは、鬱々とした日々を送っている。仕事以外にすることといったらポルノを見たり、マンハッタンにいる底辺の人間を車窓ごし眺め見下すといったことのみ。
 女にもフラれ、いよいよ彼の精神は危険な領域へと突入する……

 個人的には、シナリオそのものよりも画面から伝わる空気感を楽しむもんだと思います。
鬱蒼たる雰囲気をブチ切れたモヒカンにサングラスのトラヴィスが二丁拳銃でぶち壊す、至高のカタルシス!
レーガン大統領暗殺事件の元ネタでもあります。



 以上です、すべて保障できる名作なので、見て損はしないかと。
勧善懲悪ではない現実、たまには悪党に共感してみるのもいいんじゃないかしら!?